不動産事業(PM/FM、AM)から見た「ESG」

ESG は企業価値評価の重要な要素であり、ガバナンスの観点からも、今注目されており、特に、経済、社会、環境が激変する中で、ESG は企業のサステナビリティを左右する要素と考えられます。

不動産事業の分野でも、これまでは賃料収入や売却益などの、ROA(総資産利益率)・ROE(自己資本利益率)・キャッシュフローといった財務指標のみに着目して、物件の選定や運用するのが一般的でしたが、今後は、地域社会への貢献や環境問題への取組みなどESGの視点から運営を行うことも重要となります。

そこで本連載では、5回にわたって “不動産事業(PM/FM、AM)から見た「ESG」” と題して、「不動産×ESG」を紐解いてみたいと思います。

第1回:不動産ESGのオーバービュー
第2回:賃貸管理業務(PM/FM)におけるESG対応
第3回:不動産開発(AM)におけるESG対応
第4回:ESGベンチマーク
第5回:ESGのDX

第1回:不動産ESGのオーバービュー

1. ESGと不動産ESGファクター

ESGという言葉は、もともと「従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の視点を組み入れる “ESG投資” 」の考え方が一般化され、各要素の頭文字を合わせてESGと表現されたものです。

不動産ESGは、金融・株式市場で普及したESGの潮流が不動産業界に波及し、不動産業界における商品である「不動産」を、主に環境(E)ファクターとして取り込み、社会(S)に広がりを見せ、最近では「修繕計画・管理計画の良否とその実施の状態」や「賃貸経営管理の良否」が価格形成に影響していることも多く、大規模な証券化対象不動産では、既にガバナンス(G)ファクターとして取り込まれ始めています。
図1に不動産ESGファクターをまとめてみました。

なお、環境に配慮し、環境性能が高く良好なマネジメントがなされている環境価値の高い不動産は、一般的に「環境不動産」と呼ばれています。

本連載では、以下の2回にわたって各業務とESGファクターの関りを説明する予定ですので、不動産ESGファクターも2つの業務に分けて記載しています。
第2回:賃貸管理業務(PM/FM)におけるESG対応
第3回:不動産開発(AM)におけるESG対応

図1 不動産ESGファクター

2. 日本での不動産ESGの変遷

日本の不動産投資市場では、低炭素社会の実現と長期的なサステナビリティの視点から、まずは環境(E)ファクターが注目され、施策として環境不動産(環境スペックが高く、良好なマネジメントがなされている環境価値の高い不動産)の普及が促進されました。

その後、東日本大震災を契機にレジリエント(災害発生時の建物の機能維持・早期回復)な建築設計を求める声の高まりにより「安全・安心」のファクター、さらにはSDGsの広がりでテナントとの協働体制(グリーンリース等)も環境性能の維持・向上に不可欠との認識がひろがり、社会(S)ファクターが注目されるようになりました。

そして近年は「情報開示や透明性・内部統制の確保」「反社勢力排除」「コンプライアンスの遵守」「利益相反の排除」等のガバナンス意識の高まりから、ガバナンス(G)ファクターが注目されています。

まとめ

1.ESGと不動産ESGファクター
・ESGという言葉は、もともと「従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の視点を組み入れる “ESG投資” 」の考え方が一般化されたもの。
・不動産ESGファクターは、金融・株式市場で普及したESGの潮流が不動産業界に波及し、不動産業界における商品である「不動産」を、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の視点で、より詳細に評価項目をリストアップしたもの。

2.日本での不動産ESGの変遷
・日本の不動産投資市場では、サステナビリティの観点からのまずは環境(E)ファクター、次に東日本大震災を契機に社会(S)ファクター、最近になって情報開示や内部統制、コンプライアンス遵守の機運の高まりからガバナンス(G)ファクターの順で取り組まれている。

次回は「賃貸管理業務(PM/FM)におけるESG対応」について解説いたします。

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