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グローバル競争を生き抜くためのトレジャリー・マネジメント(日本CFO協会 大田研一氏に聞く)

日本企業のグローバル展開が本格化している昨今、海外拠点の統制や財務リスクの管理が重要課題となってきています。
そこで長年、大企業のCFOを務め、日本CFO協会の主任研究員でもある大田研一氏に日本企業の行うべく対応についてインタビューしました。

中村 : 日本企業のグローバル展開が本格化しており、大企業だけでなく中堅・中小企業にとっても海外拠点の統制や財務リスクの管理が重要課題となってきています。実際に日本企業の海外子会社や買収先の資金に関わる不祥事がいくつも公となっており、対岸の火事では無くなってきています。今日は日本CFO協会の主任研究員であり、長年、CFOとして大企業の財務部門を統括されてきた大田研一さんに、グローバル競争に生き抜くためのトレジャリー・マネジメントというテーマで、日本企業がどのように対応していけばよいか、お話を伺いたいと思います。

大田 : 8年ぶりに米国の財務プロフェッショナル協会(AFP)のコンベンションに参加してきました。しばらくご無沙汰しているうちに大きな変化が起きていると感じましたのでキーワードで簡単にまとめますと、
(1)グローバル展開への対応、
(2)クラウド・システムの浸透、
(3)フィンテックの台頭、
(4)AI,RPAに対する危機感
となります。
米国企業も、従来は国内市場中心の企業がグローバル展開する上ではトレジャリー・マネジメントの高度化が重要課題となっています。米国企業は先進的なイメージがあるかもしれませんが、財務プロフェッショナル人材については欧州企業に比較して多通貨管理等に慣れていません。また、財務システムの老朽化も課題になっています。トレジャリー・マネジメントを支えるシステムは一般にTMS(Treasury Management System)と呼ばれており、多くのITベンダーがパッケージやSaaSとして提供しています。

中村 : 米国企業にそのような課題があるとは意外でした。とは言え、日本ではTMS自体が普及していないので、それでも米国は進んでいるように思われます。今回の訪米で注目したことはありますか。

大田 : 私が注目したのは、米国ではサプライチェーン・ファイナンスの活用がシステムの進化と共に普及してきたと思います。もともと現金割引などを提供して回収を早める重要性を認識している国です。サプライチェーン・フィナンスには債権の売却や早期支払い等様々な種類がありますが、米国ではダイナミック・ディスカウントが浸透しています。これは買い手企業が売り手企業に対して早期支払いを実行して、あらかじめ決めた金利でのディスカウント(値引き)を受けることができるものです。買い手企業にとっては割引により、効率的かつ確実な資金運用となり、売り手企業にとっては債権早期回収により資金繰り改善に繋がります。
日本でも、銀行がファクタリングサービスを提供していますが、債権買取の対象企業は信用力の高い大企業に限られています。

中村 : 日本では、中小企業が売り手の場合、限られた大企業の債権しか早期回収が行えませんね。

大田 : はい。日本の場合、大企業は金余り、中小企業は資金繰りが苦しい。サプライチェーンファイナンスの普及は、日本の経済にとっても重要です。

日本でTMSが普及していない理由

中村 :トレジャリー・マネジメントシステムについてお聞きしたいと思います。
欧米企業の多くはTMSを利用しています。TMSはCMS(キャッシュマネジメントシステム)の機能を包含し、為替や金利のリスク管理など企業グループの財務管理を統合的に支援するシステムです。日本では、メガバンクが提供するCMSを導入している企業が多いですが、TMSを導入している企業は少ないと感じています。グローバルで経営を行うには、マルチカンパニー、マルチカレンシー、マルチバンクに対応したTMSのニーズが高いと思いますが、TMSが普及していない原因は何だとお考えでしょうか。

大田 : 日本においても、近年、キリバなどのTMS導入企業が増えていますが、経済規模からすれば、まだまだ少ないと思います。これはグローバル経営の経験が浅い経営者やCFOが多く、トレジャリー・マネジメントの価値を十分理解していないからではないでしょうか。海外は国内に比べビジネスリスクは格段に高くなります。ここ10年程の間、日本企業は内部統制のため、ITに投資をしてきましたが、最後の砦となる財務にお金をかけていません。勘定合って銭足らずでは、グローバルで安定成長することは難しいと考えます。

中村 : 人件費削減だけを効果として捉えると財務部門は少人数ですので、IT化の優先順位は下がりますが、資金効率や財務リスクまで広げて考えるとトレジャリー・マネジメントのIT化は重要な取り組みになりますね。海外は金利も高いし、為替リスクも大きい。国内と同じレベルで考えてはいけませんね。

トレジャリー・マネジメントの人材育成が課題

大田 : 欧米企業に比べ日本企業の財務担当者は経理畑出身者が多く、財務スキルの不足が懸念されます。トレジャリー・マネジメントの施策を確実に実行するには経験・ノウハウが必要です。長年、低金利が続き、かつ実質無借金の上場企業が半数を上回る状況です。このため、日本の大企業には資金調達の経験がない中堅社員が存在します。これは非常に危険な状態です。リーマンショックのような大きな環境変化に対応できるよう経験を積ませることが必要です。

中村 : 日本の大企業では、一流大学出身者もEXCELの集計に追われる日々を送っています。日本企業がグローバル競争で生き抜くには、グローバルでの財務戦略が必要ですが、日本の財務部門の現状は、集計作業に追われ、分析や戦略策定の余力がないように思われます。

大田 : 集計作業はITに任せ、分析や施策策定といった戦略的な業務に注力しないとグローバルで活躍できる財務人材は育ちません。

中村 : TMSの導入により省力化して、余力を作って人材を育てていく必要がありますね。

大田 : そのとおりです。米国ではFP&Aが注目されています。FP&Aとは、Financial Planning & Analysis(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)の略で、業務管理および財務計画の立案、財務データの分析を行う職種またはその業務のことです。背景には業務の自動化、AI化が進み、スキルを上げなければ職を失う危機感があるようです。

日本企業が取り組むべきこと

中村 : 日本企業の財務担当者も他人事ではないですね。では、こうした問題を抱える日本企業が、どのようにトレジャリー・マネジメントの高度化を図っていけばよいのでしょうか。

大田 : 経営者は経営環境が大きく変わることを考えておかなければなりません。海外においては、全般的に金利は高い。海外展開していくには、米ドル資金の不足も懸念されます。環境変化に対して臨機応変に対応していくには、様々な施策を実施できるように、ノウハウを蓄積しておかなければなりません。今やる必要がないから、何もやらない。0か1かということでは環境変化に柔軟に対応できません。環境変化に強い財務を実現するには、今後の変化を見通して重要と考える施策、手法をスモールステップで試み、経験を通して人材を育成し、組織的に継承していく必要があります。しかし、まったく経験のないことを根拠なく実行するのはリスクが高いので、新しい取り組みを行うには、意思決定に必要な情報の可視化が必要になります。財務にとっては資金や資産の可視化が第一歩になります。グローバル、グループ全体の資金の予定・実績を可視化することにより様々なリスクが見えてきます。

中村 : 大企業では資金の可視化の必要性について認識が高まっていると思いますが、アクションに繋がっていないように思われます。

大田 : 資金の可視化を行うにあたっては、併せて業務整理とルール化が必要です。目的なく可視化対象の銀行口座を増やしていくと費用が膨らむだけでなく、資金繰りが複雑になり、管理が難しくなります。まず、銀行口座を整理し、不要な口座は廃止すること。グループで決済日を統一して、入出金をパターン化することにより、管理がしやすくなり、資金繰りの精度も向上します。

中村 : まず、業務の整理とルール化の上、資金の動きを可視すれば、正常パターンが明確になるので、異常(リスク)も発見しやすくなると言うことですね。

大田 : そうです。そして、資金の可視化と分析を継続し、学習を積み重ねていけば、グループ全体の資金繰りや資産状況の予測が可能になる。そうなれば、プーリング、ネッティング、サプライチェーン・ファイナンスなど様々なソリューションの中から、自グループにとって何が最適か見えてきます。

PDCA:資金の可視化→リスク分析・予測→施策策定・実行

中村 : そうですね。私も過去のコンサルティング案件でプーリングやネッティングなどCMSの導入効果について試算を行ってきましたが、大企業と言ってもグループにより、事業特性やグループ内取引の特徴が異なり、優先すべき施策も異なることを実感しました。中堅・中小企業の場合、海外は拠点数や資金量が少ないため、CMSのサービスの中で最も普及しているプーリングの投資対効果すら微妙です。海外拠点が一国に一社ならプーリングする必要はなく、親会社からのタームローンによるグループファイナンスで十分な場合が多いです。

大田 : そのような場合でも子会社の資金繰りを可視化しておけば、最適なタイミングで最適な金額のタームローンを組め、資金効率を改善することができます。また、グループファイナンスを行う必要が無くても、親会社からタイムリーに指導や注意喚起が行えます。CMSの導入を検討するならば、企業規模の大小に関係なく、まず、子会社の資金繰り、銀行口座の入出金を可視化することにより、自グループの特徴を掴み、データに基づいて施策検討してみてはどうでしょうか。こうした管理業務はグローバル展開している企業グループにとって必須であり、投資家や債権者に対して経営の説明責任を果たす上で必須の取り組みではないでしょうか。

中村 : コンシストは、企業がキャッシュマネジメントの第一歩を踏むため、グループ全体の資金を可視化し、課題把握や要因分析を支援するキャッシュマネジメントツール(SKELETON CMT)を提供しています。また、世界最大級のTMSベンダーであるキリバとコンサルティングパートナーとして提携しており、高度なトレジャリー・マネジメントを目指す企業の支援も可能です。 コンシストのサービスの特長はデータ分析力です。お客様の実データを使った実践的なデータ分析型研修(データ分析スタートアップ支援サービス)も多数実績があります。 微力ではありますが、こうしたサービスを通して日本企業のグローバル展開を支援していきたいと考えています。大田さん、今後ともご指導をお願いいたします。今日はお忙しいところありがとうございました。

太田研一氏 プロフィール

電機メーカー(NEC)の財務30年で海外勤務13年(ニューヨーク)。
米国の財務手法を日本に移植(CMS,コミットメントライン、本社ビルの証券化、シンセティックリース等)。
2001年から投資銀行、ベンチャー企業、戦略コンサルティング、MOT大学院教授を経て、2008年に株式会社アコーディア・ゴルフの取締役常務執行役員に就任。
2010年に退任し、現在は財務コンサルタント、社外取締役、大学兼任講師で活動。

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解説者紹介

中村正史
株式会社コンシスト/ビジネス戦略事業本部長・チーフコンサルタント

アビームコンサルティングを経てコンシストに入社。
前職を含め20年以上、キャッシュマネジメントに関わるコンサルティング、システム開発に従事し、多くの銀行、事業会社を支援。
現在、日本政策投資銀行(DBJ)の連結子会社である株式会社コンシストに在籍し、DBJと連携して、地方銀行、地方企業へキャッシュマネジメントの普及活動、高度化支援を行っている。

【主な著書】

『キャッシュマネジメントシステム導入・運営ガイド―グループ経営の効率化を図るCMS』(中央経済社)
『Eビジネス経営―市場を制する戦略と経営基盤』(東洋経済新報社)
『金融特区と沖縄振興新法』(商事法務)

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